祖母がグループホームへ入居した時の持ち物の1つに携帯電話がありました。
入居前に事前にグループホームの職員の方達には、祖母の症状についてはある程度のことは伝えていました。
その中で、祖母にとって携帯電話が精神安定剤のような役割をしていることも話しました。
祖母は毎日のように私の母(祖母の娘)に電話をしていました。
多い時には1日に20回以上も電話がかかってきたこともあり(笑)、そのほとんどが私の母に対しての文句でした。
被害妄想のひどい祖母にとって携帯電話で私の母へ文句を言うことは、ストレスを発散させる方法の1つでした。
以前、その携帯電話を祖母がいらないと言い出した時がありました。(その時の話しはこちら)
しかし、携帯電話でストレスを発散していた祖母から携帯電話をとってしまうと、そのストレスが祖母が1人暮らしの間に来ていただいていたホームヘルパーさんにむいてしまい、その結果、ホームヘルパーさんを怒らせ、断られるということになってしまいました。(ヘルパーさんに断られた話はこちら)
そういったこともあり、携帯電話をグループホームへ持って行かせるべきか否かを職員の方に相談したところ、「最初は携帯電話を持たせておいて、グループホームに慣れてきた時点で携帯電話をなしにしましょう」という話しになりました。
グループホームは認知症専用の施設ではありますが、あまりにひどい症状の方は(職員の方の手がつけられないような状態など)入居を断られることもあるそうです。
職員の方には、祖母の被害妄想の状態などを伝えた結果、祖母のような症状の方も以前いたことがあるので「大丈夫です!」とおっしゃっていただいたのですが、念のため携帯電話を持たせることになりました。
職員の方もすぐにホームに慣れて、携帯電話を手放すことができるようになると考えていたようです。
しかし、祖母の症状はちょっと特殊だったようで、そうすんなりと思い通りにはいきませんでした。
おそらく職員の方は祖母が携帯電話を持っていようが、いまいが、それほどホームでの生活には影響しないだろうと思っていたみたいですが、予想以上に祖母が携帯電話に依存していることを知り、少し困惑したようでした。
私と母がグループホームに祖母を入居させ、「また来月会いに来るから」と約束をして帰路についてわずか1時間でもう電話がかかってきました。
グループホームに入居した当日だったので、慣れるためには電話にでないほうがいいだとうということで心を鬼にし、この日は電話に1度もでませんでした。
しかし次の日も電話は何十回もかかってきます。さすがに1度くらい電話にでてあげようと、私の母は電話にでることにします。
母:「もしもし、どうしたの?」
祖母:「お前どこにおるんね?」
母:「家に帰ったけど。」
祖母:「あれは私の家やからね!勝手にこんなところに入れて!」
母:「私は兵庫県の自分の家に帰ったのよ?お母さん(私の祖母)の家には誰も住んでないよ。」
祖母:「じゃあ、なんで私がここにおらないかんの?私の家やから帰らすように施設の人に言いない!」
母:「お母さんは1人で暮らせなくなったから、そこでお世話にならなあかんのよ。」
祖母:「私は1人で暮らせる!私を家に帰らせんようにしたいんじゃろ!」
このような感じで、祖母は母に家を乗っ取られるという被害妄想を起こしてしまったようでした。
祖母の認知症の症状でのややこしいところは、自分の強く思い込んだことを忘れないところです。
母に家を乗っ取られると思い込んだことを忘れることはないので、何かホームで不満に思ったり、家に帰りたいという思いが頭に浮かぶと、「施設に勝手に私を入れて、家で暮らせないようにされた」という怒りの気持ちが沸いてきていまい、母に文句の電話をかけようとしてしまいます。
ホームでは大広間のようなところがあり、日中の多くの時間をそこで過ごします。
施設の入居者の方と話をしたり、テレビを見たりしながら徐々に慣れていくはずだったのですが、「怒りの気持ち」が頻繁に沸いてしまう祖母は、椅子に座ったままだと腰が痛いやらなんやらと理由をつけて自分の部屋に連れて帰ってもらい(車椅子なので誰かに頼まないと部屋に戻れないので)、そこで横になるふりをしてずっと電話をかけ続けているような状態でした。
1週間ほどして施設の責任者の方から電話があり、祖母の施設での様子の報告がありました。
責任者:「お世話になります。」
母:「お世話になっております。母(私の祖母)の様子はどうでしょうか?」
責任者:「携帯電話にあれほど依存されるとは思いませんでした。ちょっと施設に慣れるまでには時間がかかりそうですね(苦笑い)」
母:「そうですよね。今からでも携帯電話を持たせないようにしたほうがいいですか?」
責任者:「いや、あれだけ依存していれば、携帯電話をとりあげてしまうと大変なことになると思います。う〜ん、難しいですね。」
母:「そうですか、祖母からの電話は1日に2、3回ぐらいはでてもかまいませんか?」
責任者:「そうしていただけるとありがたいです。あまり電話ばかりに依存するのも良くないですが、電話をまったくでないのも今の状況ではストレスがたまって良くなさそうですし。」
母:「わかりました。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願い致します。」
責任者:「いえいえ、こちらこそご協力いただきありがとうございます。こちらも1日でも早く慣れてもらえるように頑張りますので。」
携帯電話を持たせたことにより、施設に慣れる妨げになったような気もしますが、持たせないという選択をしていれば、ストレスが職員の方達に向いた可能性もあります。
どちらが正解だったのかはわかりませんが、携帯電話を持たせてしまった以上、少しでも祖母と電話で話をする時には落ち着いてもらえるよう対応するしかありません。
母が電話にでると、どうしても「怒りの気持ち」が沸き上がってくるようなので、孫である私が祖母を落ち着かせる役割をになうことになりました。
祖母と一緒に暮らしている時から、祖母を落ち着かせる役割は私に任されていたので(笑)、だいたい祖母を落ち着かせる要領はこころえています。
電話開始の30分ほどは祖母の愚痴をきいてあげ、そこからなだめにかかります。
祖母の安心することがらを何度も何度も落ち着いて話し聞かせることで(いついつ会いに行くからそれまで我慢してなど)、祖母の怒りの心を徐々にほぐしていきます。
祖母:「わたしゃ、もうここは嫌じゃ!はよ連れて帰って!」
私:「おばあちゃん、1人で家で暮らしたら大変やで?料理や洗濯は1人でできへんやろ?」
祖母:「わたしゃできるよ!姉妹が近くい住んどるんじゃから、手伝いに来てくれるがね!」
私:「毎日は来てくれんのちゃう?それに夜は1人でトイレに行ったら危ないで。」
祖母:「1人でいける。それに何かあったら誰か来てくれるじゃろ。」
このように祖母は家に帰れるといい、私はやんわり難しいんじゃない?というような会話を30分ほどした後、最後に2人の意見の間をとり、落ち着かせにかかります(笑)
私:「それじゃあ、あともうちょっとそこで待ってて。3週間したらそっちに迎えに行くから」
祖母:「遅いがね。もう帰りたくてたまらんよ。」
私:「俺もすぐに迎えに行ってあげたいけど、仕事もあるから、もうちょっと待ってよ。」
祖母:「そしたらいつ帰ってくるんね?」
私:「3週間したら帰るから。家にもちょっとだけ連れて帰ったるから。」
祖母:「ちょっとじゃ嫌じゃよ。ずっと家で暮らすからね。」
私:「ずっと暮らさせてあげたいけど、1人暮らしは危ないから無理なんよ。だから俺やお母さんが帰る時は家で過ごして、その後はまた施設でお世話にならなあかんわ。」
私:「施設でお世話になったり、家で過ごしたり、交代交代にしよ!」
祖母は認知症ですが、こだわりを持ったことはしっかりと覚えてしまうので、「ずっと家で暮らさせてあげるよ」などと言ってしまえば、「前、家でずっと暮らせるって言ったがね!」と私が嘘つきという印象を持たれ今後の対応が難しくなってしまうので、真実を話しつつ、機嫌をとらなければなりません。(なので時間がかかります 笑)
最初は「ずっと家で暮らす」と言っていた祖母も、1時間ほどすると私の意見を受け入れてくれ(ちょうど気持ちが晴れる時間なのかもしれませんが)、最後は「ありがとうね。」と言ってくれ、電話を終えることができました。
この後は数日間ではありますが、施設でも落ち着いて過ごせたようで、施設の方からもお礼の言葉をいただきました(笑)
また数日経つと怒りの気持ちが沸いてきてしまうようで、その度に同じ話を電話ですることになるのですが。
施設にあずけ、肩の荷がおりたような気持ちにもなってしまいますが、個人的には施設に任せっきりにすることには何か気が引けてしまうので(単に罪悪感からそうしてしまうのかもしれませんが)、これからも自分にできることはやっていければなと思っています。