入院して数週間が経ち、ようやくリハビリができるぐらいまでに祖母の腕は回復しました。
折れていた腕のリハビリはもちろんのこと、レビー症体型認知症によるパーキンソン病の症状で歩くことが不自由になっていた祖母にとっては、ベットで寝たきりなっていたこの数週間でさらに歩くことが難しくなっていました。
以前のように手すりを持って歩けるぐらいにまで回復しないと、祖母の願いである「自分の家で暮らす」ということが困難になってしまいます。
本来なら1ヶ月ほどリハビリをして、入院前の状態に近いぐらいに回復してから退院という流れになるはずだったのですが、リハビリを始めてまさかの1週間で退院することになってしまいます。
なぜなら、祖母がリハビリを頑なに拒否し続けてしまったからです。
入院以来、祖母が毎日のように言っていたのが、「家に帰りたい」ということ。
リハビリ初日は、早く退院したいという思いからリハビリを頑張ったようですが、なぜか2日目からはリハビリを拒否してしまいます。
私達家族は、1日目は順調にリハビリを行なったと聞いて安心していたのですが、次の日に病院に行くと看護婦さんからこのように言われてしまいます。
看護婦さん:「こんにちは。」
母:「こんにちは。いつもお世話になっております。」
看護婦さん:「いえいえ、じつはですね、今日は〇〇さん(祖母)のリハビリを行えなかったんですよ。」
母:「え、どこか体調が悪かったのでしょうか?」
看護婦さん:「いえ、熱もなく、体調は悪くはないと思うのですが、『病院ではリハビリはしない』と言ってベットから起きようとされないんです。」
母:「えっ!、すいません。ご迷惑をかけしました。」
看護婦さん:「私達がいくら説得しても、聞いてくださらないので、ご家族の方で説得していただけないでしょうか?」
母:「わかりました。うちの母がわがままを言ってすいません。」
看護婦さん:「いえいえ。それではよろしくお願いします。」
その後、母は祖母に理由を尋ねます。
母:「お母さん(祖母)、今日なんでリハビリせんかったの?」
祖母:「わたしゃ、この病院ではリハビリせんよ。もう明日退院するからね。」
母:「腕は力が入らんし、足もフラフラやのに退院できるわけないやろ!」
祖母:「ここに入院してからどんどん歩けなくなったんじゃ。ここの病院におれば、悪くなる一方じゃ。」
母:「それはこの病院のせいじゃないの。ベットに寝たきりでいたら誰でも足の筋肉が弱ってしまうの。」
祖母:「ここの病院は手すりも太くて握る時に力が入らんよ。家の手すりではこんなことなかったのに!」
母:「それは手すりのせいじゃなくて、腕の骨を折ったからやろ。腕に力が入らんから、リハビリするんやないの。それに歩けるようにならんと家には帰れないからね。」
祖母:「ここではリハビリはせんよ。ご飯も美味しくないし、わたしゃ退院するからね!」
このような感じで、祖母は全く聞く耳を持ってくれません。
次の日、私がお見舞いに行くと、やはりその日もリハビリを拒否したようでした。
私:「おばあちゃん、今日もリハビリせんかったの?」
祖母:「わたしゃ、ここではリハビリせんよ。はよ退院させんね!」
私:「退院してどうするんよ?退院しても今の状態やったら、家で暮らされへんで?」
祖母:「ムーちゃん(私)、あんた一緒に暮らしてくれるって言ったやないの!」
私:「2週間おばあちゃんと一緒に暮らして、残りの2週間はショートステイに入るって話やろ?」
祖母:「そうじゃ。」
私:「それは、おばあちゃんがしっかり歩けた時の話やん。おばあちゃんがしっかり歩けんかったら家での生活は難しいで。」
祖母:「わたしゃ、歩けるよ。家に帰ったら、ちゃんと手すりがあるんじゃから、すぐに良くなるはずじゃ。」
私:「ちゃんと歩いてるのを見せてくれたら、すぐに帰れるのに。」
祖母:「ここではリハビリはせんよ。先生も良くなったって言ったんじゃから。」
私:「それはリハビリできるぐらいまでは、良くなったって言ったんじゃないの?」
祖母:「いや。先生は良くなったらいつでも退院してもいいよ。って言ったんじゃから。」
私:「それはリハビリも終わって、しっかり手と足が動くようなったらって意味やろ?」
祖母:「家に帰ったら歩ける!病院はもう嫌じゃ!」
いくら話しても、平行線のままです。
認知症になって以来、今の自分の状況を客観的に考えることができなくなっていたので、以前の家で歩けていた頃のイメージを今の自分に当てはめて考えてしまうようでした。
祖母の頭の中では、家では手すりを持って歩けていたという印象が強いようで、「家に帰れば歩ける」と思い込んでしまっています。
さらに、被害妄想が激しくなってきていることもあり、病院に対して悪いイメージ(ここにいたから体が動かなくなる)を持ってしまっていたので、病院ではリハビリをする気にはなれないようでした。
この日から数日間の間、祖母は看護婦さん達の説得も、私達家族の説得も聞いてくれず、リハビリを拒否し続けます。
祖母はとにかく「家に帰ったら歩ける」という思いが強く、1度退院させて連れて帰らないとおさまらないような状態でした。
病院の先生からは「骨はしっかり治っているので、ここでリハビリをする気分になれないなら、退院して家の手すりでリハビリをしてもいいですよ。」と言われたこともあり、私と母は1度祖母を連れて帰り、家(宮崎の祖母の家)でリハビリをさせるしかない。という考えに達します。
そして祖母を家に連れて帰り、祖母の状態、今までに起きた出来事、様々なことをもう1度冷静に考え、私と母はある結論を出すことになります。
ではその結論についてはまた次回に。